Chikuwaのつぶやき

クラシック音楽、言語、ドイツ、物理など、雑食性です

幸福について(ショーペンハウアー、鈴木芳子訳)

割とこなれた翻訳がなされているようで、硬いイメージのある哲学書でありながら筆者が自分と等身大で話しているような親しみやすさのある訳だった。「人間の人生は苦痛と退屈の間を行き来している」という基本的な人生観にはハッとさせられた。確かに義務・懸案・欠乏が多ければ苦しいが、逆に全て満たされて何もしなくてよい、となったとしても人間は不幸せに感じるものだ。苦痛を避けるため、欲・余計な期待を捨て他人の事情に気を揉むことをやめ、一方で退屈にならぬよう思索・音楽・創作など"高尚な"時間の使い方を大切にすべきだと説いている。宮沢賢治的な生き方であるように感じたが、合っているだろうか...?

プラトンの「実際、人間界の物事にむきになって追い求めるほどの価値はない」という言葉を確信するであろう。(p.199)

申し分なく思慮深い生活を送り、自分の経験からそこにふくまれる教訓のすべてを引き出すためには、しばしば回想し、自己の体験・行動・経験並びにその際に感じたことを総括的に再検討し、自己の以前の判断を現在の判断と比較し、企図や努力と、成果並びにそこから得た満足とを比較してみなければならない。...常にせかせかと機械的に生きていると、透徹した思慮深さが失われてゆく。気持ちが混沌としてきて、思考は一種の支離滅裂状態になり、会話はじきに脈略がなく断片的で、いわば細切れ状態になる。(p.219-220)

私が百人にひとりの選ばれた人として尊敬するのは、何か待たねばならないとき、すなわち、これといってすることもなく、ぽつねんと座っている時に、ステッキやナイフやフォーク、その他何であれ、そのときちょうど手にしているもので拍子をとるようにトントン、カタカタ音をたてない人である。彼はおそらく思索をめぐらせている。(p.282)