Chikuwaのつぶやき

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ドイツ原発全停止 ドイツ国内の意見は

昨日2023年4月15日、ドイツで稼働していた3機の原子力発電所が停止し、福島第一原発事故後のドイツの原子力行政のマイルストーンとなった。
ZDFの番組で、賛成派と反対派の討論が行われていた。
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日本にもドイツ国内の様子が伝わればと思い、私見の入らないように、しかしナチュラルな日本語になるように翻訳してみます。

提出された意見

論客は、再生エネルギーを専門とする教授と、バイエルン州原発維持路線を行くCDUの政治家
ざっと論点をまとめると、次のようになる。

電力需要について

  • 天候に依って発電量が大きく変化する再生可能エネルギーだけでは、国内の需要を賄えない曜日・時間帯がある。現存する原発は、専門家によれば2020年台末までは稼働可能であり、一時的な橋渡し(Überbrückungstechnologie)として利用するべきた。原発を停止した今、化石燃料に頼らなければならないが、天然ガスウクライナ戦争の影響で価格が高騰し、国内の電気代の上昇に繋がっている。
  • 昨年も一昨年も、(電力需要の高い)冬の数字を見ると、原子力がなくとも発電量は十分であった。
  • 今後さまざまなものが電化されていくため、電力需要は2倍にも3倍にもなりうる。再生可能エネルギーだけでは賄えない時間帯が出てきてしまうから、今日停止した原発のメンテナンスは続けて、いざ電力が必要となったときに再稼働できるよう準備しておくべきだ。
  • 電力需要がこれから急上昇するのは確かだ。しかし稼働していない原発を稼働可能な状態にキープしておくのは、非常にコストが高い。連邦の、そしてバイエルン州の財政をそこまで圧迫して原子力という選択肢を維持するのはナンセンスだ。再生可能エネルギー発電所を迅速に設置すべきだ。

環境への悪影響について

  • 石炭や天然ガス発電に比べ、原子力発電は発電量あたりの二酸化炭素排出量が少ない。これから、一時的に石炭発電をより多く稼働することになり、二酸化炭素排出量は微増する(環境保護にとって残念な日 ein schwarzer Tag für den Klimaschütz)。
  • 原子力発電所は建設および維持コストが非常に高く、ドイツで生じる核廃棄物の処理場所も未だ決まっていない。原子力発電を続けるのは持続可能でない。

バイエルン州再生エネルギー政策への批判

経済への悪影響について

バイエルン州首相のMarkus Söderは、昨日一つの原発を訪問し、twitterに意見を投稿した。

原子力から手を引くのは、全く誤った判断だ。原子力を一時的な橋渡しとして使わなければ、上昇する電気代が経済の足を引っ張ってしまう。

ヨーロッパの他の国々の原子力政策

ある原子力の安全性を研究する専門家は、原子力はコントロール可能な技術だとしながらも、ドイツの撤退には反対していない。

ヨーロッパはもちろん再生可能エネルギーの発電および充電に関する技術を推し進めていく。フランス、フィンランドチェコは今後も原子力発電を続ける計画だ。全体として、ヨーロッパは少ない二酸化炭素排出量でエネルギーを確保できるようになるだろう。

来年にはフランスで新たな原発が稼働を開始する予定。イギリスではある原発の建設が10年以上延長し費用が膨大になっているが、政府が将来30年間の電力販売価格を保証する形で、業者が原発の稼働ができるよう支援している。

  • イギリスは新たな原発を建設しているが、過去数年間でそれ以上の原発を停止している。フランスは今後数年間で十数機の原発が年限を迎え、それら全てを新たに建設することはできない。原発は高価だ。フランスの原子力企業は昨年大きな赤字を出している。全体として、原子力産業は斜陽である。

番組内で言及された視聴者の投稿

  • 原子力はお金がかかり過ぎる上に危険だ。昨年水不足に見舞われたフランスでは、原発を冷却するのが大変だったじゃないか
  • 核のゴミを処理する場所が決まっていないのに、原発の稼働を続けるのはいけない。
  • 他の国々が原子力を使い続けている中、ドイツだけ全停止して、高い電気代を払っているのは納得できない。

私見

僕は2014年に福島第一原発を遠目に見に行ったことがある。街の家屋が大地震の後直されもせず草だらけになっていたのがとても印象に残っている。日本のような天災に頻繁に見舞われる国では、原発のような、常に冷やし続けなければいけない発電方式は無茶だと思う。核融合発電は逆に運転し続けるのが難しいので、安全面の心配はあまりしていないが、実用化にはまだまだ時間がかかりそう。化石燃料を使うのをやめた暁には、天候に左右されないベース電源として重要な発電方法の一つだろうと思う。

ヨーロッパでは天災による原発事故の心配はあまりないが、核のゴミ問題はなかなか解決が見えない。フィンランドは場所を見つけたが、ドイツはまだ場所探し中である。

上の議論に出たように、原発を使わないことによるデメリットは確かにあって、うまいバランスを見つけていかなければいけない。そして再生可能エネルギーの発電状況と地理、地下資源や世論は各国異なるので、その解も異なるだろう(実際欧州内での統一は見られない)。地下資源に乏しく、隣国から電力を買うこともできない日本で、電力消費の増える夏を原子力無しで乗り切ろうとすると、今は火力発電に頼らざるを得ない。フランスやスウェーデンのエネルギー関連の研究者たちは、欧州物理学会において「原子力は一時的な橋渡しとして今後10年程度不可欠」と意見していた。

一般市民にとって最も難しい問題は、政党の息がかかった政治家の発言、経済的合理性を無視できない企業の意見、ひょっとしたら原子力産業の息がかかっている原子力研究者の証言、といったバイアスかかりまくりの情報の海から事実らしいことを拾いとって、原発のメリットデメリットの両面を検討することだと思う。「原子力なしで電力需要は満たせるのか」「維持点検コストは採算が合うのか」といった疑問に対する答えは、上の討論で見られるように試算の仕方や言葉の定義でいくらでも変わるようだ。他国に依存しないエネルギー自給と、時間変化する需要に合わせたエネルギー供給と、安い電気料金と、環境負荷の軽減は、現在の技術ではどの国も同時に達成はできないから、どれをどれだけ重視するか、各国の事情に合わせたいい塩梅を見つけるしかない。